大判例

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東京高等裁判所 昭和51年(う)520号 判決

被告人 北野正治

〔抄 録〕

しかしながら、刑法一七八条にいう抗拒不能とは、性交やわいせつ行為を拒否することが社会通念上不可能な場合であれば足り、抗拒不能に陥った原因の如何を問わないと解すべきである。そして原判決は、原判示第四の事実において、「同女にいわゆる後倒法、鈴振りなどの施術をして催眠状態にし、更に、真実治療に必要な施術を行うものと誤信している同女を、いすにかけた自分のひざの上にあおむけに寝かせ、片手で同女の目を押さえ、ひざで同女の体をゆするなどして、身動きのできない状態にして抗拒不能に陥らせたうえ、他方の手で同女のセーターをまくりあげ、じかに両乳房及び乳首をもむなどのわいせつの行為をし」たものと認定したうえ、これを準強制わいせつ罪に該当するものと判断しているのであるが、右事実においては、催眠状態と同女がとらされていた姿勢とがあいまって抗拒不能の状態にあったものと認定していることは判文上明らかであって、右のような事情が刑法一七八条の抗拒不能に当ることはいうまでもない。

次に原判決は、原判示第五の事実において、「同女に鈴振りなどの施術をして自由に身動きのできない催眠状態にし、その抗拒不能に乗じて同女を床の上にあおむけに寝かせ、その下着をはぎ取り、その上に乗りかかって同女を姦淫し」たものと認定したうえ、これを準強姦罪に該当するものと判断しているのであって、右事実においては同女が催眠状態のみによって抗拒不能の状態にあったと認定したものと解せられるけれども、深い催眠状態にあっては、抗拒不能となる場合もありうることは後記のとおりであるから、右が同条の抗拒不能に当るとしたことが刑法の解釈を誤ったものであるとはいえない。

所論は、催眠状態においては、性交、わいせつ行為を拒否することが可能であるという。なるほど、所論引用の著作物には、催眠は、昏睡とか嗜眠とかいわれる意識の障碍のように、刺戟が与えられてもそれに反応しなくなった状態とは考えられない旨の記述があり、また原審証人赤川今夫の供述中に、「催眠中においても人間には護身の本能というのがあり、自分に都合の悪いことは抵抗する本能を持っている。」旨の部分があることは所論のとおりであるが、被害者峯田京子は、原審証人として、「被告人に犯されるとわかったが、抵抗したくとも、体がきかなかった」旨供述しているのであって、催眠状態の深浅、施術者に対する信頼の程度、被施術者の性格、被施術者が自己に対する攻撃を、攻撃と理解しているか、治療行為と誤信しているか等によって、抵抗本能が残っているとしても、これが常に発揮されるとは限らず、従ってまたわいせつ行為や性交を常に拒否できるとは限らないと解するのが相当であるから、所論は採用できない。

そのほか、所論が催眠状態についてるる主張する点は、独自の見解であって、採用できない。

してみれば、原判決が刑法一七八条の解釈適用を誤ったものとはいえず、その誤りによって事実を誤認したともいえない。また原審が刑法一七八条の抗拒不能の解釈について審理を尽くさなかった違法があるともいえない。

(綿引 石橋 藤野)

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